こんなに胸を締め付ける










傷が疼きだした




















空飛ぶ飛行機。
たくさんの人が慌ただしく駆け抜けていく。
みんなどこかへ旅立つ。
みんなを乗せて飛び立つのが飛行機。
ここは飛行機の出発点。
そして、アヤの出発点。





アヤとケンは空港にいた。
近すぎず、遠すぎずの距離で二人とも立っていた。
二人とも何も話さない。
目を逸らさず互いを見ているだけ。
見送る、という光景にしては不自然だ。
笑顔でもなく、泣き顔でもない。
二人とも無表情だった。





「・・・痛く、ないか?」
やがて、静かにケンが喋りだした。
無表情だったその顔は、なぜか痛そうに歪められている。
「どこも怪我してないが?」
何のことを言っているのかわからない。
アヤは思ったことを隠そうともせず、眉間に皺を寄せ問い返す。
「お前のほうが痛いんじゃないか?あの傷。」
今度はアヤの顔が、痛そうに歪められる。
あの傷とは、今ケンの服の下で包帯を巻かれている腹の傷のことである。
顔を歪めたまま、ケンは静かに首を横に振った。












痛いはずだ。
アヤの心は今、引きちぎれそうなほど痛いはずだ。
たった一人の妹と、離れ離れになるんだ。
もう、一生逢えないかもしれないんだ。


痛くないはずがない。


それに比べたら、俺の傷なんて。
いつかは治る。
そんな俺の傷なんて、痛いうちに入らない。
だから、痛くなんてない。









アヤは何も言わない。
いつもと同じ。
だからこそ、痛々しい。
だからこそ、何も言えない。



俺には言う資格なんてない。
何も言ってはいけないのかもかもしれない。
だけど、これだけは許してください。














しばらくの沈黙の後、ケンは口を開いた。
「妹と同じ土地に居られなくなるだろ?」
視線は足元。
言葉は重い。
その言葉に、アヤは少し目を見開くがすぐ元の無表情に戻り、硬い声で何とか答える。
「・・・だから?」
ケンは俯いていた顔を上げ、アヤを真正面から見る。
ケンの顔は、さっき見たときよりも歪んでいた。
「もう、一生逢えないかもしれないだろ?だから、・・・だから、すごく、痛いんじゃないかと思って。」
二人の上を飛行機が飛び立つ。
「痛くて、痛くて、堪らなくて。なのに、泣くのを我慢してるんじゃないのか?」
ケンの声が震える。
「もし、そうなら・・・・。我慢、すんなよ?」
今にも泣きそうだな。
ケンの顔を見て思うと同時に、アヤは思い出した。
彼が、痛みに敏感でやさしい人間だということを。






「ああ。わかっている。」
だからアヤは、笑顔で返した。
「本当か?」
「もちろんだ。」
まだ心配そうな顔をしているケンに、どうしたものかと考え込む。
が、フッと微かなものだが、彼にとっては笑顔を浮かべる。
「じゃあ、泣きたくなったらケンのところに行く。これでどうだ?」
アヤの飛行機の時間が近い。
「絶対だぞ。」
目を大きく見開いた後、ケンは満面の笑顔を浮かべた。
そのケンを満足そうに見ると、アヤは飛行機に乗るためケンに背中を向けて歩き出した。
「絶対だからな!!」
アヤの背中に向けてケンは大声で言った。




















痛い、痛いとあなたの傷が疼きだしても










どうすることもできない










だから心配だけはさせてください










助けになろうとすることだけは許してください











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