26.タバコの煙










別に、なにか気まずいことがあったわけでもないし、彼のことを嫌いになったわけじゃないけど、俺は前ほど彼の部屋へ行かなくなった。いつも、暖房がないから寒いだとか、酒を飲む相手が欲しいとか言って部屋へ押しかけていた。ときには素直に一緒に居たいと言ったこともあった。それに対する彼の態度はいつも変わらず、微笑むでもなく呆れるわけでもなく無表情に一言「入れ。」とだけ言って部屋に迎え入れてくれた。彼と同じ空間に居たかった。同じ時間を共有したかった。それだけだった。少なくとも、初めの内は。けれどもその気持ちはすぐにどこかへ消え去り、ただの意地のようなものに摩り替わっていた。目に見える形で2人の関係が欲しかった。






「信じられないのか?」
アヤは言った。俺の目を見ながら。


「そんなんじゃないんだ。」
俺は言った。アヤの目も見れず、俯きながら。






呟いた俺の唇はアヤに塞がれ、抱きしめられた。
その時のアヤの冷たい手の平と俺の少し高い体温の肌が触れ合った感触で気づいた。違う、そうなんじゃないと。本当に求めていたのは好きだというキスではなく、愛してるという体の繋がりではなかった。声だ。不確かで、透明な言葉が欲しかったのだ。
「・・・アヤ。一度でいい、言ってくれ。」
息継ぎの合間に囁く。その声は自分で聞いても驚くくらい必死で泣きそうだった。今度はアヤの目を逸らさず見つめ続けた。






「・・・・・好きだ。」






一度も言われたことのなかったその一言は、タバコの煙のようにすぐに消えてしまうけど。













2004/12/05 ヴァイス/アヤケン
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