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なにもかも、この手の中に残ればいい。 遠く捨て去った昔の思い出。 小さく弱い弟を守るために父を刺したことを、後悔したことはない。 細い体がボールのように投げられる姿を、大きな目から流す涙を、見ていられなかった。 「どうしてたたかれるの?」 止まらない涙を拭いながら、弟が小さく呟いた。 その声が、言葉が、頭の中で響き続ける。今も、まだ。 手に持った包丁から肉を裂く感触が伝わってきた。 そのときも、後悔なんてしなかった。 悲しいと言うことも、罪の意識も感じなかった。 これで弟が泣くことも、傷つくこともなくなるだろうから。 ただ、 「にいさん」 大切な弟がこれからどうなるのか、それだけが心配だった。 荒んだ生活。 その時に気付いた残酷な世界の真理。 「それでも、どこかにいる弟の幸せを祈り続けた。それだけがあの時の俺の生きる糧だった」 淡々とした声が煙草の煙と混ざり合い、夜空に溶けていった。 触れ合っている指先が冷たい。 「おまえだけが俺の全てだった」 「ソウマ」 ツバサに後ろから抱きしめられているソウマの体が、一つ震えた。 「ぜんぶあげる。兄さんにあげるよ」 触れていただけの指先を絡めて、ぎゅっと握り返しながら。 そっと目を閉じて、すべてを委ねて。 耳元を吐息が掠めた。 「今までも、これからも、離しはしない」 指先に口付けた、それはまるで誓いのキスのようだ。 報われたツバサ兄さん。 2005/12/10 神無月の巫女(ツバサソウマ) |
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