紅色
―タンコウショク―





















離れた熱に一瞬、まどろみかけた意識が引き戻された。今まで繋がれていた指先はゆっくりと躊躇いがちにその手の持ち主の膝の上に置かれそこにある着物をぎゅっと握りしめる。項垂れていた頭はさらに俯き落ちる髪がその表情を完全に隠してしまって、読み取る事は不可能だったが予想は出来た。出来たためにその離れた掌を追うことが出来ず、空いてしまった手の寂しさを埋めるように紅い髪に指を通して視線が交わるようにと待つことしか出来なくなった。
こういうふうによく恋次はわからない行動をとる。それは仕事中でもあったし、こうやって2人で同じ空間を分け合っているときでもあった。回数であれば後者のほうが圧倒的に多いが。その時いつも百哉はどういう行動をとればいいのか、恋次がどんなことを考えているのかわからずただ困惑して恋次の髪を梳いて言葉が掛けられるのを待つだけで、それしかできない自分に奥歯を噛み締め眉を顰める。
すみません、とどれくらい経ったかわからなくなった頃いまだ俯いたままの恋次が吐息のように吐き出した。その言葉の意味も真意もわからず無言で先を促す。
「手、離したこと。」
少し間を空けて告げられた言葉にはいつもの覇気がなく、小さな聞き逃してしまいそうな声だった。やっと上げた顔には苦笑とも泣き笑いともとれる表情が浮かんでいる。そしてその目は百哉の内を探ろうと不安そうに見つめては逸らされる。なにをそこまで気にしているのか、その不安を和らげようと髪を梳いていた手で頭を撫でた。
「別に嫌なんじゃないんだ。あんたとこうやって触れ合うの。」
言葉とともに伸ばされた指がそっと、頭を撫でていた掌の形をなぞった。その指の愛しさに強く指を絡めればゆるく、でも確かに同じように指を絡めてくれた。言葉どおり抵抗されない。なら何があると言うのだろう。拒絶でないのなら何故。恋次はひとつ目を固く瞑ると苦しそうな表情で吐き出した。
「嫌じゃないんだ。けど、これはすぐ壊れそうで、消えてなくなりそうで」
嫌だ、と震えた声で呟いて俯く姿にただ愛しさが湧いて。絡めた指のまま引き寄せて抱き締める。今ならこの存在以外いらない、と誰にだって言える。それぐらいこの胸は恋次の存在に言葉に震えて、表現できない感情に支配された。
「それが嫌なんだ。だから、」
「恋次。」
わかっている、とその言葉の続きを遮る。すると恋次は肩口に額を強く押し付けて背中に手を回し抱き返す、というよりはしがみ付いてきた。この腕の中の存在は果たしてこんなに愛しかっただろうか。狂った愛だったはずだ、はじまりなんて。引っ掻いて引っ掻かれて、傷ついて傷つけられて、噛み付いて噛み付かれて、縛って、囲って、陥れて、放さなくて。己のしたことなんて媚びてくる女に対する暴力と同じで、わかっていてだからこそそうして。捨てるつもりだった。退屈しのぎのはじまりだったのだ、彼の自分に対する憎しみともやつ当たりともとれる感情を知っていたから捻じ伏せてやろうと。それが捨てられず離せず、まして愛しいなんて。
いつからこんな純粋な愛になった。
引っ掻かれるのに恐れ、傷つけられるのに恐れ、噛み付かれるのに恐れ、怯え。ああ、これは確かに恋次と同じものだ。過ぎていくことを知っている、終わることを知っているが故にそれは訪れる。ひっそりと抱き締めあう2人に寄り添うように、常に傍にある。それが2人の間を染めている。確実に。
いつかすべて侵食されてしまって狂気を振り回すかもしれない。この時に終わりが来るかもしれない。それは誰にも、百哉にも恋次にもわからない。けれど今この腕にある存在は確かで、握り合っている指の強さは本物だと信じられる。2人の間に生まれた感情も。
俯いたままの恋次に掬い上げるように口付けた。己には伝えるための言葉も表現も持っていなかったから。恋次は驚きに一度目を見開いたあと泣き笑いのよう表情で、情事のときのように甘く囁いた。












口付けよう。たくさんたくさん、どこへでも。
指を絡めたまま、不安の数だけ。口付けよう。























2005/02/13 ブリーチ(白恋)ヴァレンタインSS






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